モンマルトルの夜をもう一度 [DVD]
繊細なタッチでアシストする彼(企画製作者のニルス・ラン・ボーギー)のピアノはもちろんのこと、映像の構成、音へのこだわり、なによりも人々への優しい眼差しがいきている。
育ててくれた音楽を、自身で受け止め、次代に受け継ぐという主題が明確に表現されたドキュメンタリー作品。映像表現者としての力も見事なものだ。
三人の大ベテランを囲む人間模様に心うたれる。「人間っていいなあ〜生きてるっていいなあ〜」と実感させられる。この中では最年少だが、すばらしい歌唱力で圧倒するリサ・ニルソン。「失敗したっていいのよ、またやり直せばいいのよ」と語る彼女の言葉も心に残る。
観終わった後、サウンドトラック盤CDに手が伸びる。ライブの臨場感をいかしつつ、細部の音処理が見事で、ここにも企画者のセンスと力量を感じさせる。
風のささやき ~ベスト・オブ・ハーモニカ・ムード
ジャズハーモニカ奏者としてのトゥーツよりも、「ハーモニカ小父さん」の異名に慣れ親しんでいる方には、これはちょうど良い彼の履歴書となり得ることだろう。
彼のメインの活躍の場であるジャズ畑のナンバーから、60年台の音楽界を席巻したボサ・ノヴァ、さらにレコードシーンを一色に塗り替える前のロックを含むポップスの名曲まで、ヴァラエティに富んだ曲目を、彼は実に楽しげに吹きこなしている。ブルージーな曲も彼にかかれば心躍るような気分で聞けるのは、トゥーツが音楽を心底楽しんでいるからだろう。老いてその気概はますます深まっていることが、ハーモニカと言うちっぽけな楽器の、煌くような冴えた演奏から知れる。
これはただのベスト盤であり、ここを入り口としてトゥーツの深遠に浸るもよし、と思えば、もっと聴くべき名盤は山ほどある。だが始まりとしてはこれほど贅沢なアルバムはなかろう。昭和生まれの貴方なら、幼い日より聞きなじんだ名曲に出会えるだろうし、若い皆さんも気張らずに豊かな音色に身をゆだねれば、ひと時オヤジやオフクロの魅入られたメロディ・ラインに共感することが出来るだろう。ジョン・レノンも魅了された彼のハーモニカの魅力は、決して息絶えてはいない。
おっと、彼の本職であるギターや、これも得意とする口笛も堪能できるというオマケつきだ。