カリブ海 ガリフナ族の歌
ライナー・ノートによると、ガリフナ族とはポルトガルの奴隷船でアフリカから連れてこられた黒人たちの末裔です。船が難破してカリブの島に流れ着き、そこで彼らは独自の文化を発展させました。そのガリフナの伝統音楽を継承し民族の誇りを取り戻そうと活動を続けているのがこのCDのバンド「リタリラン(鶏の血)」で、89年にホンジュラスのラセイバで結成されました。
収録曲のうちおよそ半分が伝統民謡で、残りの半分がバンドのオリジナル曲です。民族の歴史を背負ったかのようにアフリカの大地の恵みとカリブの抜けるような青空と透き通る海を感じさせる音楽です。打楽器とギターの音色が基調になっていますが、それが時に友情の喜びを歌い、そして時に喪失した故郷への想いを悲しく奏でます。実に!多彩な顔を見せる民族音楽といえます。
私のお気に入りは11曲目の「ミギラバナ(いかないで)」というガリフナ民謡です。村を出ると言う兄と、置いていかないでと引きとめる妹。歌詞を読む限り悲しい曲のはずなのに、旋律はアンバランスなほど底抜けに明るく、人生の悲哀を吹き飛ばすかのような曲です。
こうした知られざる民族伝統の音楽をCDという形で企画することに尽力する日本人がいるということに、驚くと同時に深い敬意の念を抱きます。
エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグアを知るための45章 エリア・スタディーズ
ホンジュラスに強い思い入れがある私は、彼の国に関した書籍をここ数年渉猟し続けています。しかし、私の希望に応えてくれるような書物は多くありません。中米は日本人には心理的にも遥か彼方に位置していて、その関連書籍は商業的にペイしないと見られているのでしょう。例えば島袋あゆみ著「アスタマニャーナ・また明日ね」という優れたホンジュラス滞在記も自費出版という形でしか世に出ることが出来ません。
この「エリア・スタディーズ」のシリーズでホンジュラスが取り上げられるとは思いもよりませんでした。他の2国との抱き合わせである上、ホンジュラスに割かれたのは14章と、3カ国の中では頁配分が最も少ないのですが、それでも彼の国の情報に飢餓感のある私は本書をむさぼるように読みました。
取り上げている話題はスペインによる侵略史・疲弊した経済状況・比較的安定した政治史・マヤ文明史などです。コパン遺跡に4章も配分したのは、マヤ文明の関連書が比較的豊富に出ていることに鑑みると、もったいない気がします。
またエルサルバドルとニカラグアでは文学や映画など芸術面に多少なりとも触れているのですが、ホンジュラスに関しては同様の記述が見当たりません。この点も残念です。
一方で、政治・経済に関する情報は比較的新しく、大変有益に感じられる部分も少なくありません。また他の中米国に比べてその国民性が穏健であることに触れていますが、この点は懐かしい思いとともに読みました。確かに私が首都テグシガルパで言葉を交わした人々は物腰が柔らかく、温厚な人柄を印象づけるものでした。
なお、ニカラグアの反政府組織コントラの拠点がホンジュラス国内にあったことに触れた英国映画「カルラの歌」の監督名を「ケン・クローチ」としていますが(141頁)、正しくは「ケン・ローチ」です。
マヤ・アステカ遺跡へっぴり紀行 ――メキシコ・グアテマラ・ホンジュラス・ベリーズの旅
非常に多いページ数もそうだが、中身が大変に濃い。
あるページで、観光ガイドさんのことを書いていた。
伊達男で、タンをまき散らしながらも(ひどいなあ)やってきた観光客に語るとは、およそ日本では考えられない。
と、言えないのが同行者君の無神経な「恩を仇で返す」諸行。(いやはや、旅に出る人はもう少し「日本人」ということを自覚して欲しいですね。)
こうした、気ままな記述は実際に旅行に行った人の目線であるから、大変に印象深かったのだろう。
肝心の遺跡だが、とにかくも、大変に情報が多い。 どこかのマニアな漫画と違って、このテンションで続くのだから読み応えが大きそうだ。
一番の魅力は、旅行者の目線で捉えられる「社会の姿プラス遺跡のある風景」だ。
日本でも出回ることの少ないマヤ関係の本を、必死に探し求めても。研究者の優れた知見を吸収しても、実際に
目にすることの出来た、”雰囲気”までは見えない。 その面で見ると貴重な本なのかもしれない。