ダニー・ボーイ
良い本かどうかは読者が決めるわけですが、絶版になっている本の古書の評価は高いことからも、その素晴らしさが分かるというものです。
2006年3月に惜しくも鬼籍に入られた久世光彦さんの切なる思いが詰まったエッセイ集です。演出家としてもエッセイストとしても卓越した作品を作り続けてきた久世さんのまさしくラスト・メッセージとも言うべきシリーズの第4作にあたります。
この世を去る「今際の際」に何を聴くのか、というテーマで連載が始まり、結局亡くなるまで14年間ずっと執筆されたということ自体が凄いと思いました。1編1編が見事な昭和歌謡史になっていますし、昭和という時代をとらえるのにこれほど分かりやすいエッセイもないのではと思います。久世氏の自伝のような趣もあり、激動の時代を生きた一人の知識人の生き様を感じる作品群ですから。
戦後をずっと引きずりながら、その思いのたけを綴った文章が並んでいました。昭和40年代の話題になったかと思うとまた戦後すぐの混乱期の話に戻るわけで、久世さんの戦後・昭和という時代へのとらわれが凄みとなって伝わってきます。
「昭和枯れすすき」を久世さんの「時間ですよ・昭和元年」に取り入れた話は、他でも繰り返し語られていますが、興味深いエピソードです。全く売れない艶歌歌手の「さくらと一郎」の歌が、番組の挿入歌として繰り返し流れたことを切っ掛けに百数十万枚の大ヒットになったわけで、どこに運が転がっているか分からないものです。レコードジャケットを描いたのは当時まだ無名だった橋本治さんで、これもブレイクする後押しを久世さんがされたことになります。まさしく名プロデューサーたるエピソードですが、それを自慢するのではなく、鋭い演出家の感性が世を捉えた思い出話となっていました。そのような魅力的なお話が満載ですから、絶版になっても多くの人から愛されるのだと思っています。
世界のうた
鮫島有美子さんの美しい声を聴くたびに心が休まる思いがします。そして、どの曲でも本当に心をこめて歌っていることを強く感じます。
このアルバムは「世界のうたベスト」と題されるとおり、今までの録音のベスト編集として、鮫島さんがクラシックの名曲や世界の民謡をオーケストラと共に、時にはピアノ1本で歌っています。ほとんどの曲がよく知られた曲で、クラシックというよりも唱歌集といった雰囲気があります。ある曲では抑えた発声、ある曲ではクレッシェンドを生かした迫力ある歌い方をされていますが、全体的には落ち着いた雰囲気の仕上がりで、選曲上から誰でも親しめる内容になっています。
また、このアルバムには各曲解説が詳しく書かれていて、収録曲の経緯や知られざるエピソード等を知ることができます。たとえば、よく聴くことがある名曲「ジュ・トゥ・ヴ」がシャンソンではなく無名時代のサティ作だったということは、この解説で初めて知りました。このアルバムと対を成す「日本のうた」もいいのですが、昔から好んで聴くことが多かった、この選曲には特に親しみを感じます。
この種のアルバムは一見地味だと思われるかもしれませんが、一度立ち止まって聴いてみてはいかがでしょうか、昔から親しんでいた歌、世界の歌。
天使の歌声
すでに19歳になってポップシンガーとして新たな道を歩んでいるシャルロットの12歳の頃のデビューアルバム。現在の声(歌い方)はさておき(汗)、このCDは12歳としては素晴らしき1枚。シャルロットのお気に入りの70曲ほどの中から更に厳選して選ばれたこのアルバムで披露している声は、まさに「天使の歌声」だ。
低音になると少し不安定になる部分もみられるが、高音は文句のつけようがない美しさ。澄みきっていてよく響く美声。ハープなど、弦との相性がよく思わず鳥肌が立つほどの美しい声を聴かせてくれる瞬間がある。中性的な声で、時には子供っぽく時には女性らしい歌い方をしている。しかしまだ12歳。息の長さ、フレージングなど気になるところもあるが、素人さんが聴くならば問題なし。
クラシック界にも大きな「夢」をくれたシャルロット。ミラノのスカラ座で「蝶々夫人」を歌う事が夢!と語っていた彼女は現在、やさぐれておりますね・・。非常に残念!ですがこのCDは癒されます。お薦めです。