PRANA DANCE
トランペットという楽器から出ているとは思えないほど暖かくて、繊細で技巧的なフレーズ、
そして類まれな作曲能力とハンディキャップ・・・。
トム・ハレルを知らない人に紹介する場合、一言でいうならこんな感じだろうか。
マイルスのようなスタイルを連想するひとが多いかもしれないが、マイルスのように強烈に
聞き手に突き刺さしてくるようなタイプでない。
あくまでも控えめに、優しくささやいてくれる。しかし、そのひとつひとつの音色とフレーズは
夜空に散らばる星屑のように光り輝いている。
そんなトムのスタイルはうれしいことに、昔から変わりなくこの最新作でも十分に堪能できる。
フェンダーローズを使用している楽曲が多く、全体的に幻想的な雰囲気を作り出し、
知らない風景が続いていく旅をしているような気分にさせてくれる。大きな期待と少しの不安が
まざったようなドキドキとワクワク感。
個人的には7曲目の「THE SEA SERPENT」がお気に入り。
色気のあるフェンダーローズの音色から、テーマ〜トムのソロと続いていく流れも美しい。
初めて聴く人にも十分にオススメできるアルバムだし、90年台後半〜00年台始めごろの
ストリング入りビックバンドより、こちらのほうがトムの魅力が分かりやすく伝わると思う。
間違いなく現在同じ時代を生きているジャズ・ジャイアントのひとりだろうし、
本当に多くの人に聴いてもらいたい。
最後に、ハンディがありながらコンスタントにリーダー作をだしてくれるトムに、
ただただ、ありがとうと言いたい。
ビューティフル・マインド ― アワード・エディション [DVD]
統合失調症に苦しむ本人と家族愛について真正面から描かれた秀作である。実は私も同じ境遇の家族として、この映画には心底助けられた。当時妻が同様の病気にかかっていて、自分の不幸を恨み、絶望感にひしがれていた時に出会った映画だっただからである。14歳の多感な頃に同じ悲しみを経験した息子と2人で見たのだが、いつもは2時間の間集中して映画を見ることができなかった息子が、食い入るように鑑賞していたのが印象的である。ジェニファコネリーが苦悩した家族の苦しみを経験した私達にとって、この映画は勇気を与えてくれた一生忘れられない名作である。終わった後タバコを買いに外出したが、泪がとめどなく流れ、しばらく家に帰ることができなかった。もう一度希望を捨てずにがんばってみようという気持ちになった。妻に対してもう一度愛情をもって向き合ってみようと決意させてくれた。時間はかかったが、薬物治療の甲斐もあって今では妻も治り、家族で再び幸せな日々を送っている。この映画には感謝している。監督のロンハワードは昔、アメリカングラフィティー(ジョージルーカスの出世作)に出演していた俳優である。実に立派な監督に成長したものである。ありがとう。
統合失調症 正しい理解と治療法 (健康ライブラリーイラスト版)
このレビューを書いている僕は統合失調症に罹患し、今年で11年目になる21歳の患者です。このレビューは患者を持つご家族からの目線ではなく、統合失調症に罹患している患者自身の目線で読後の感想を述べさせて頂きます。
僕は小学校6年生のときに統合失調症が発症しました。発症の原因は生まれつき「てんかん」という脳の欠陥的障害を持っていたことから、「併発・てんかんの合併症」ということでした。また同じ親族の中に統合失調症を患い、15歳のときから50歳に至る今日まで、精神病院に入退院を繰り返している身内・血縁者がいることも、発病リスクを高める要因となりました。
この本や、他の統合失調症について述べた本にも書いてある通りの「急性期」「消耗期」「回復期」のステージを乗り越えてきました。
14歳の頃の急性期の酷い時期から、16歳ころの消耗期、そして18歳ころからの「回復期」を過ごし、今現在に至ります。そんな患者本人の僕が読んでも適切な内容です。統合失調症を発症したと思ったらすぐににでも手にすべき一冊だと思います。
この本の一番のおススメできるポイントは、「患者本人が読んでも適切な内容であること」です。まだ完全に統合失調症という障害を受容しきれていない患者さんには、他の統合失調症の本では「知らなくてもいい内容」を知ってしまって病気が悪化するケースすらあるからです。例えば、「統合失調症の人の気持ちがわかる本 (こころライブラリー イラスト版)」は極めて軽度な患者向けのアドバイスブックであり重症な統合失調症患者には適しません。仕事や就職といった急性期の治療とはかけ離れた内容が載っていますのでご注意を。
この本は、「統合失調症が発症したらまず買うべき」治療に必要不可欠な「初心者でも分かるガイドブック」というべきでしょう。そして、ある程度の理解ができたら、「新版 統合失調症 (よくわかる最新医学)」にステップアップして、より理解を深め、受容を目標に治療を進めるのがベストな選択だと思われます。
以上が、罹患歴11年の患者側からの見解です。参考になれば幸いです。
恋愛睡眠のすすめ スペシャル・エディション [DVD]
ストーリーは破綻してます、はい。1回でも退屈になった人には、最後まで死ぬほど苦痛な映画かもしれん。あらかじめ用意された最後の感動まで、丁寧に連れて行ってくれる、ハリウッド系ラブストーリーが好きな方にとっては「金返せ!」率300%。
夜、寝る前に観たい夢を考えたり、好きな女の子が夢に出てくるように、自分勝手なラブストーリーを妄想していた僕(まさか今も?)のような人間には、こんなにグっとくる映画はございませんでしたよっ!
妄想は世界を救う。違う。
音楽も良い。そりゃあ良いってくらい良い。エンドロール時のご褒美に感激。小道具なども良い。ああいいねっ!ってくらい良い。
統合失調症 (PHP新書)
100人に1人の発症という意外に身近な心の病、統合失調症について、それを知らない人も具体的に理解できる。例えば芥川龍之介の患った注察妄想など。
何よりも病む者の側に立つ視点がこの著書にはある。つまり遺伝や性格だけではなく、それ以上に社会的な要因に照明が当てられる。近代化されていない社会との比較は説得力がある。逆に言えば、今日の社会や家族の側の受容体制こそ問題なのかもしれない。
フィルターをかけるのが苦手という認知的特徴は、病の早期発見に繋がるのだろうか。まだまだ解明されていないことは多々あるようだ。
この病の治療史の概略や治療薬についての言及がきちんとあり、特に患者を支える家族にとり役立つと感じられた。