Great Enigma: New Collected Poems
2011年のノーベル文学賞受賞者の代表作「悲しみのゴンドラ」が掲載されています。
1度読んだだけで理解は不十分ですが、作者の独自の美的世界があると思いました。
世の中と景色の見方が変わるような現代詩集です。
Haikuという詩もたくさんあり、日本の俳句に傾倒していたことが推察されます。
日本では残念ながら一部しか翻訳されておらず、本作の翻訳がのぞまれます。
手元において何度も読めば楽しめると思います。
巻末に著者の子供時代から学生時代までの生い立ちが書かれており、興味深いです。
わたしたちが正しい場所に花は咲かない
「想像力とユーモア」が狂信者の心に「気付き」を与える具体例として、著者の友人とイスラエルのタクシー運転手のやりとりが紹介されていますが、たいへんわかりやすくかつ共感を抱く挿話でした。全編を通じて理屈じみた抽象論ではなく、誰もが身近に感じられる具体例をあげ、そこから普遍性を引き出していて、著者の思考力、洞察力に深い敬意を感じました。また、中東戦争では銃を取って戦った著者だからこそ、文学こそが歴史を動かし得る、という主張に力強い説得力があります。テーマからして決して明るい話ではないのに、不思議と希望や元気をもらえる、素敵な本です。
悲しみのゴンドラ 増補版
訳者の解説によれば、スウェーデンの国民詩人的な存在らしい。病後の復活が国内メディアで脚光を浴びるといった表現者のあり方は日本ではなかなか想像しにくいけれど、それはむしろ日本の近代の特殊さゆえかもしれない。
トランストロンメルさんの特質はその絵画性と音楽性とのことですが、原語を読めない読者としてはもどかしいところがある。それでも詩人本人をよく知る訳者のていねいな訳を二度三度と読んでいくと、浮かび上がってくるきらめき、病気や老年による孤独とそれを受け入れるふところの深さを感じる。
「みずからの影に運ばれるわたしは/黒いケースにおさまったヴァイオリンそのもの。//わたしのいいたいことが ただひとつ/手の届かぬ距離で微光を放つ/質屋に置き残された/あの 銀器さながら。」(「四月と沈黙」より)
そして日本の俳句に深く親しんで作った「俳句」(十七音?)は、訳の力も借りて、国や言語の違いを越えて響いてくるものを感じた。いいものを読ませてもらったという思い。二つだけ引いておきます。
「見てごらんわたしの坐りかた/汀に曳き揚げられた小舟のかたち。/これはしあわせだ。」
「ひそかな雨の青。/わたしは秘密ひとつをささやき/響き合わせる。」
悲しみのゴンドラ
2011年のノーベル文学賞受賞者・トランストロンメルの唯一の日本語訳詩集です。
トランストロンメルは日本の俳句に造詣が深く、特に正岡子規を絶賛していました。
トランストロンメルの詩は「俳句の精神」が貫かれています。
例えばこのようなもの。
>高圧線の幾すじ/凍れる国に絃(げん)を張る/音楽圏の北の涯(は)て
>蘭(らん)の花の窓/すべり過ぎ行く油槽船/月の満ちる夜
日本とは気候風土も歴史も全く違うスウェーデンで作られた詩ですから、
日本の俳句のような「花鳥風月」を詠んだものではありません。
しかし、「厳選された短い言葉で奥深いものを表現する」という
俳句の精神は、日本人にもきっと共感できるでしょう。
人への贈物にするのもおすすめな本です。
薄い本なので、1つ1つの詩を味わいながらゆっくり読んでほしいです。