魚影の群れ [DVD]
映画の撮影技術で最も基本的なものに“カットつなぎ”があります。様々なシーンをカットとしてつなぎ合わせることによって,瞬時に時間的な経過や空間を表現することができます。
例えば,「家を出るシーン」の次に「目的地のシーン」をつなげれば,移動時間が省略され,その間の出来事は視聴者の想像力に委ねられることになります。
一方,1シーン1カットという手法は,視聴者に臨場感と緊張感を継続させ,視聴者をその時空に引き入れるという効果を持っています。本作の相米慎二監督は,この長回しの1シーン1カットを実に効果的に使用する監督として知られています。
本作では,房次郎が俊一の喫茶店を訪ねるシーンやマグロを捕えようとするシーンにこの手法が使われていますが,違和感はなく,適度の緊張感を保っています。ただ,この手法では役者の力量がかなりのウエイトを占めますので,キャスティングが重要となります。本作では緒形拳がほぼ完璧にこれらのシーンをやり遂げており,役者としてのすごさに感動します。
作品的には“マグロを釣る”という行為自体はあまり意味が無いようですが,相米慎二監督の作品ということになると,この行為は“生死をかけたもの”へと変化します。一瞬にして生から死へと転がり落ちる可能性のあるところで生きる人々,そのような人々を彼は捉えようとしているのです。
本作は,何度か映画化が試みられた末に断念されてきた,吉村昭の原作を相米慎二監督が壮大なスケールで描きあげた傑作で,下北半島最北端の漁港を舞台に,巨大マグロとの死闘に命をかけた男と,ひたすら寡黙に待ち続ける女たちの壮絶なドラマです。
漂流 (新潮文庫)
サバイバルものの番組や本、マンガ等見るのが好きなんですがこの本めちゃくちゃ面白かったです。
まず冒頭に作者が有名な日本の無人島話を二つほど紹介。戦後数年たってからの事件でサイパンのアナタハン島で32人が生きてた話(この話を元にした小説&映画が「東京島」)とグアムで発見された横井さんの話。
この時点ですでにひきこまれます。
ではもっと昔、江戸時代に船で漂流した例はないのかと作者が興味を持って資料を調べまわりそれをもとに小説として書き起こした本編が始まります。すばらしいイントロ。
超簡単に説明すると船が難破して絶海の孤島(伊豆諸島の鳥島という火山島)に漂着した長平という男の島でのサバイバルストーリー。
最初4人いたけど1年たったら死んで一人に。何より一人の孤独がつらく途中自殺を考えたりおかしくなりかけたりする。
サバイバルするうえで厳しかったのは「火」をおこせないこと。なんせ着の身着のままで漂着したので包丁とかの切る道具もない素手でのサバイバルは本当に大変。
食べ物はその島に群生するアホウ鳥を殺して生で食う、これが主食。後はその卵や貝、魚をとったり。そして水源がないその島では雨水を卵の殻(結構大きい)にためて飲むしかない。さいわい降水量の多い島だった。
アホウドリが島から離れる時期があってそれまでに干し肉にして保存しておいたものを食べてすごす。
とにかく何でも工夫して生き延びていく姿に感銘を受けます。
島の周りには船が通ることは一切ないけど漂流ルートになってるらしく同じように難破して流れ着いた人たちが合流して最終的に15,6人になる。(やっぱり生き延びる意志の弱い人間は亡くなっていった。弱気が一番の敵)
合流したグループが火をおこす道具を持っててそこからは肉や卵を焼いたりできるようになり調理法がレベルアップ!
そして救出を求むべくいろいろ手を尽くしたがすべてうまくいかず「船」をつくることを決意するもなんせ島には木材や釘とかが一切ない・・・そんな状況に何度も絶望しながら国へ帰りたい一心であらゆる手を尽くす16人。最初に漂着した長平は12年、37歳になっていた。
果たして彼らは船を完成できるのかそして生きて島から脱出できるのか・・・
何もない状況でも生きる意志と工夫さえあれば生きられるんだな。すごいわ。超名作!
この作品映画化されてるみたいだけどものすご見たい!
三陸海岸大津波 (文春文庫)
明治29年、昭和8年の地震と大津波、昭和35年のチリ地震
今回の震災と全く同じことが起きていたということに愕然としました。
まさに「天災は忘れた頃にやってくる」
本書のような優れた記録文学がありながら、
同じ悲劇が繰り返されてしまったことはとても悲しいです。
被災した地域では、過去に学び、防災意識も高かったにもかかわらず、
今回はまさに想定外の規模だったということなのでしょうか。
この本に記録されている、著者が自らの足で調べた数々の証言は、
私たちが今、メディアを通じて見たり聞いたりできる
津波の実態とほぼ重なります。
知っているからこそ、今、読むべき本だと思います。
今、ベストセラーになっている本書ですが
増刷分の印税は、著者の奥様によって被災地に寄付されるそうですね。
もっと勉強して、
多くのことを知らなければと思いました。
そして、天災を忘れないことが
天災を防ぐ唯一の方法なのではないでしょうか。
ほのかの書 [DVD]
なんとも不思議な作品だ。
認知症の娘が持ってきてしまったどこかに埋められていた封筒を持ち主に返してほしいと依頼される占い師・ほのか。
突如現れる言葉を話せない書道家・ルゥイィ。
描くことを忘れてしまった画家グローク。
絡み合っていく三人の過去、傷、想い。
だがだが、その表現の仕方が実に不思議。
どう形容したらいいのだろうか。
良いも悪いも実に日本映画的。
好き嫌いも結構はっきり出る作品かと思われる。
無名・地味な俳優が大半を占め、僕が知っている俳優さんは主演の吉村涼と根岸季衣、小野寺昭のみ。
でもお芝居の上手な方ばかりで、結構楽しめました。
特に主演の吉村涼が素敵。
「渡る世間〜」の印象が強いかもしれないが、僕的には「パパは年中苦労する」の時のイメージの方が強いってな子役からのある意味ベテラン。
主人公のほのかを愛らしく、さわやかに演じており、とても好感が持てます。
こんな女優さんがもっと増えれば、日本映画はもっと楽しくなるかな、なんて思います。
魚影の群れ [DVD]
徹頭徹尾、“1シーン、1カット”にこだわった、相米慎二の、80年代を代表する“過激”な傑作。これが、例えば、B・デパルマなら、流麗なカメラワークで、凝りに凝った“画”造りに固執する処であろうが、相米は、愚直な迄に、極力、カメラを固定し、ひたすら、生身の俳優たちを凝視し続ける。役者たちも、相米の剛速球勝負に、見事に応えた。恐らく、入念なリハーサルは行っているのであろうが、巻頭の、10分にも及ぶ長廻しが度肝を抜かれる、夏目雅子と、佐藤浩市の海辺のシーンは、砂浜の足跡の痕跡から見て、どう考えても、1テイクで撮りあげたとしか思えないし、緒形拳が、劇中初めてマグロを釣り上げるシーンは、正に、緒形本人が、マグロと、真剣に格闘しているのが、ひしひしと伝わってくる。雨の中、緒形が宿泊している旅館を、ふと見上げるその一瞬と、fuckシーンでしか、顔のクローズ・アップがない十朱幸代も熱演だが、何といっても、夏目雅子の存在感が、群を抜く。生きていれば、途方もない映画女優になったであろう彼女の名演と、こちらも若くして死んでしまった相米慎二の、映画的で刺激的な演出を、再確認して欲しい。