ミスター・ミセス・ミス・ロンリー [DVD]
「ミスター・ミセス・ミス・ロンリ―」、今ではありきたりかも知れないが、80年当時ではかなり斬新な響きを感じたタイトル名を持つ今作は、ATGの常設館となった有楽シネマのオープニング作品として上映された。
当時、政治と激動の時代が終わり、ATGは、初期の難解で観念的な前衛主義の作品群から転じて、大手では企画が通らないであろう題材の映画を、年間数本単位であるが、映画作家たちに撮らせていたと記憶する。
今作は、大森一樹の「ヒポクラテスたち」と、寺山修司の「さらば箱舟」を挟む形で公開されたが、個人的にも凄く期待した作品だった。
まず、監督が神代辰巳である。にっかつロマンポルノの鬼才として名声を博し、他社でも例えば東宝で「青春の蹉跌」といった傑作を放っていた神代の初のATG映画、しかも、今作はゲーム性の強いコミカルなタッチの作品との噂を聞けば、自身が撮った「悶絶どんでん返し」のような作品になるのかと興味が湧いた。
加えて、主演の原田美枝子がプロデューサーと共同脚本を手掛けていたのも話題だったし、事実、弱冠22歳の彼女が全力でプロデューサーとして奔走しているのを人づてに聴いて、これは絶対に観なければと同世代として秘かに応援していた。
で、封切られてすぐ観たのだが、今思い返しても、これがどうにも細部がよく思い出せない(笑)。
小説世界の主人公に共鳴し、自ら主人公の名を名乗り、奇妙な手口で男たちと出逢い、彼らの部屋に上がり込んで空き巣を繰り返す女。その女を相次いで助けた男ふたり(実はひとりはオカマ)との奇妙な同居生活に、かずのこ倒産で消えた15億円を巡ってのコンゲーム的要素が絡んでくるのだが、、、。
タイトルのミスター、ミセス、ミスは、主演の原田芳雄、宇崎竜堂、原田美枝子をそれぞれ指す。
原田美枝子を媒介にしての3人の絡みが、軽妙な台詞回しと共に遊戯っぽく進むのでオモシロく観れるものの、期待した二転三転するような駆け引きと騙し合いの展開には拡がらず、かといって、神代真骨頂の男女の色と欲の粘着したドラマとも違ったような、、、。
原田プロデューサーの奮闘にも拘らず、残念ながら作品的にも興行的にも成功したとは言えないのが今日までの世評だと思えるが、不思議な感覚を持った映画であった事は間違いない。
三國連太郎、天本英世、名古屋章、草野大吾ら実力派俳優が脇を締める今作、久しぶりに再見し、自分なりの評価を定めてみたい。
地獄【DVD】
自分は以前発売されていたVHSビデオソフトを所有してますが、 やはり、新東宝・中川信夫監督版『地獄』に比べるとインパクトが薄いです。矢島特撮監督の手腕は悪くないのですが、残酷度、ストーリーがちょっと弱い。中川監督版は皮剥ぎ、八つ裂き他地獄の刑罰オンパレード!しかし、この東映版は、ネタバレになってしまうので書けませんが、地獄の刑罰にしてはかなり大人しめ。ただ、原田美枝子さんの脱ぎっぷりや、田中邦衛さん、石橋蓮司さんの怪演は見物でもあります。
俳優 原田美枝子 映画に生きて生かされて
日本映画界を代表する多くの監督たちの作品に出演し、現在も映画・ドラマでは欠かせない存在感ある女優として活躍し続ける俳優・原田美枝子。原田さんといえば、若い頃は肉体派女優として印象が培われていたが、今日では主に脇役としての重厚な立場から物語の印象的な役割を果たしている活躍の場が大きくなった。本作は現在も第一線で活躍し続けるベテラン俳優(女優)・原田美枝子氏が自身のフィルモグラフィーを振り返りながら当時の苦労や思い出を語るインタビュー形式の内容となっている。
・ デビュー当時の原田に増村保造監督の徹底指導の下で今日の女優としての礎となった『大地の子守歌』〈1976〉
・ 若き日のゴジ(長谷川和彦)に惹かれて作り手たちとともに走り、数々の主演女優賞や新人賞に輝いた『青春の殺人者』〈1976〉
・ 妥協許さぬ緊張感の現場のなかで苦しみながらも演じて世界のクロサワに認めて貰えた『乱』〈1985〉
・ 私生活同様、三人の子を持つ生身の母親役に挑み、自身もひとつの転機となり、数々の女優賞に輝いた『絵の中のぼくの村』〈1996〉
・ 母と娘の一人二役を演じて老けメークにも挑み、自身も女優として大きな体験となった『愛を乞うひと』〈1998〉
私は世代的には違うものの映画『青春の殺人者』における原田美枝子さんに惹かれたひとりです。当時16、7歳だった原田さんが文字通り体当たりの演技で挑み(正直、原田さんの裸体〈ダイナマイトボディ〉の凄さに圧倒され、現在のグラビアアイドルには太刀打ちできない程の見事な裸体を披露)、おそらく現在の長澤まさみや綾瀬はるか、沢尻エリカといった女優たちにはここまで演じる事ができない事を演じたことに衝撃を受けました(裸体にばかり興味を残してスミマセン)。
本書でもその事に触れており、作品的評価とは別にそれ以降、胸や身体を強調したお仕事ばかりが舞い込んできた事やそれに対する中傷的な報道などに嫌気が差し、女優を辞めようとした挿話が印象的でした。ただ、そこで挫けなかったのは勝新太郎氏との出会いや原田を叱り続けた萩原健一(ショーケン)の一言、有名女優の伝記をむさぼるように読んで勇気付けられた事など読んでいて為になる興味深い挿話が多く含まれており、今日の若手女優のなかにも当時の原田さんと同じような悩みを抱えているかもしれない女優さんには是非とも読んで欲しい一冊だと思います。