島津奔る〈上〉 (新潮文庫)
タイトルもカッコ良く中味もカッコ良い小説。登場人物全員、とにかくひたすら勇敢で潔い。初読の折にキレイに乗せられてオイオイ泣いた記憶があります。「あり得ん」と斜めに見る気にもなれないところがスゴイ。気持ちの良い講談の世界ですね(←賛辞)。文章にもう少し格調高さがあれば、とは思いましたが、望蜀の嘆ということで。最初から最後までピシリと決っている、立派な作品だと思います。個人的には本能寺の変以降の日本史に暗く、関が原の戦いの経過にも無知だったもので、勉強になって有難かったです。絶版は大変に惜しいと思います。
天下騒乱 徳川三代の陰謀 [DVD]
放映前の年末、渋谷駅のホームに貼ってあったポスターを見て思わず写メ‥大好きな村上さんが、剣豪・荒木又右衛門を演じる!という事で、久しぶりに意気込んで観たお正月時代劇でした。
実在人物が登場する時代劇は配役が成否のひとつの要だと思うのですが、村上さんの荒木又右衛門は本当にハマり役で、今度はPHP文庫から出ている黒部亨原作の荒木又右衛門も演じてくれたら‥と思うほど。
様々な徳川家系の役を演じてきて貫禄の西田敏行さんも良かったし、槍の名手・桜井半兵衛役が榎木孝明さんなのも良かったです。
話も長時間の中で飽きさせず纏めてあったので、なかなか楽しく見終わる事が出来ました。
残念だったのは中村獅童さんの柳生十兵衛役‥十兵衛役は前年村上さんが金曜時代劇で演じていて、すごくかっこよかったので、どうしても比べてしまって獅童さんでは物足りなさを感じてしまいます。でも、今の芸能界に剣豪を村上さん以上にかっこよく演じられる役者さんがいないから仕方がないのでしょうね‥。
ということで、村上さんファンにはぜひおすすめの時代劇です。
最後の忠臣蔵 (角川文庫)
1702年12月15日の討入り前後、共に大石内蔵助の密命を帯びて苦難の道を歩む二人の「侍」瀬尾孫左衛門(刈屋孫兵衛)と寺坂吉右衛門の物語。確かな構想力と筆力そして豊かな想像力で、残された赤穂一党の人々のその後の人生に仮託して、人生の哀歓と人間の高貴さ、出会いと別離、侍魂と連帯の美しさなどを見事に描き切った池宮忠臣蔵の精華である。
それにしても、近衛家の家宰となった進藤源四郎(播磨守長保)の存在(104頁など)や六代将軍家宣の側室(その世子である七代家継を生んだお喜世の方)の兄分が富森助右衛門であった(177頁)という記載は、史実なのであろうか。大変興味深い。また、多くの赤穂浪人が公家侍になったのであれば、その子孫が幕末期にはどのように行動したのか(特に徳川幕府に対して)等々、興趣は尽きない。
12月18日公開の映画化も大変楽しみである。
四十七人の刺客〈上〉 (角川文庫)
『最後の忠臣蔵』がウエットな物語だとしたら、こちらはドライな目でしっかり見つめた討ち入りまでの熱い年月を描いている。
討ち入りまでに大石は何をしてきたのか、色部、柳沢それぞれの攻防、それらが静かに静かに煮詰まってゆき、討ち入りの夜すべてを爆発させるような頂点を迎える。
読むこちらも、もう討ち入りで力尽きるほどの描写だった。
個人的には大石がなんと見事なことかと感嘆しつつ、その大石に煮え湯を飲まされる色部のぎりぎりとした歯ぎしり状態に共感してしまうことが多かった。
全てを計算づくで見る柳沢の徹底した権力者っぷりもなかなか。こういう敵役がいいからこそ、大石が活きている。