ロッシーニと料理―オペラを作曲した美食家の生涯・逸話・音楽・書簡・料理
美食家としても名を残す唯一の作曲家ロッシーニの食通としての実像を探る書です。第1章では自筆メニューは3つあるものの自筆レシピは1つも残っていないこと、おびただしいおもしろい逸話も多くは作り話らしいことが語られます。しかしそれでもほぼ彼が料理人に指示してまたはたまには自ら作ったとみられる料理として2種紹介しています。現代でもフランスの一般料理書に載っているトゥヌルド・ロッシーニと注入したマカロニ、ロッシーニ風です。特に後者はフランス人のパスタ嫌いのため定着しなかったのが悔やまれるレシピを逐一ここに転記したくなるような料理です。第2章は彼が食べ物を表題にした音楽を書いた稀なる作曲家だったと知れます。お薦めは「ロマンティックな挽き肉」です。第3章は彼の書簡に見える食品です。アスコリの緑オリーブ、モデナの食肉加工品各種とバルサミコ酢、トルテッリーニ、トリュフ詰め七面鳥、チーズではゴルゴンゾーラ・スティルトン・チェダー、ナポリ風ツェッポラ、パネットーネ、マデイラ酒。第4章は生涯を美食家の形成として捉えています。少年時代ボローニャの豊富な食材に接したのが基盤です。ウィーンでキャレーム指導のフランス料理の洗礼を受け、パリでオペラ界を征服するとともにキャレーム本人と親交をもち食通、ワイン通としての定評を得ます。最晩年の10年余りは毎土曜日一流人士とパリの自邸で晩餐会を開催しました。巻末はロッシーニと比較的関わりが認められる料理書8冊からロッシーニ風を称する46のレシピを選択して掲載しています。ロッシーニ風とはフォアグラとトリュフ(黒はノルチア、白はピエモンテ産を作曲家は好んだ)をふんだんに使用した贅沢極まりない料理です。王政復古時代に盛行し、今はレストランで提供されることはほとんどないそうです。しかし、たまには景気づけに試みるのもいいのではないでしょうか。92年に八幡で再現晩餐会が行われたようです。
ロッシーニ:歌劇《モーゼとファラオ》ミラノ・スカラ座2003年 [DVD]
軽妙な喜劇ばかりがロッシーニじゃない。本作は旧約聖書「出エジプト記」を題材にした堂々たる「正歌劇」。グランド・オペラの傑作です。
エジプトの虜囚であるヘブライ人に約束の地への帰還を訴える預言者モーゼ。彼の警告した神の奇跡に恐れおののくファラオは、彼らの解放を約束します。しかしその条件に、ファラオはエジプトの神の前にひざまずくことを要求します―――
一方、ヘブライ人の娘アナイと恋に落ちるエジプトの王子アメノフィス。愛と信仰との選択に迷うアナイに対して、アメノフィスの心は愛憎に乱れるのでした―――
スケール感の大きい舞台。力ある歌唱にムーティ指揮の充実した演奏。見ごたえ、聴きごたえともに充分です。衣装がいまひとつエジプトっぽくないのが気になりましたが、これは個人のイメージの問題でしょうか。これはこれで美しい出来なのは確かですが。
「上演時間約3時間の歴史スペクタクル」といえば手強そうですが、重い印象はほとんどありません。難しすぎない物語、エキゾチックなバレエや大仕掛けな奇跡のシーンなどの見どころの多さ、そして何よりも、溌溂とした生気あふれるロッシーニならではの音楽が、3時間を決して長くない、最初から最後まで飽きさせないものにしています。
オペラを見慣れた人はもちろん、あまり見たことのない人でも面白さが掴みやすい、王道たるグランド・オペラ。満足感は請け合いです。