トウキョウソナタ [DVD]
父親・竜平(香川照之)は、会社をリストラされたが、家族には言えず、出勤するふりを続けている。就職活動で挫折を重ねたあげく、清掃員の仕事に就くことになる。長男(小柳友)は、米軍への入隊すると言い出し、次男で小学生の健二(井之脇海)は給食費を使い込んでピアノのレッスンに通っている。前半は、そんな家庭内での人間関係と、家庭外での行動が描かれていきます。
特に、竜平と健二がピアノをめぐって衝突する場面が印象的。竜平に追われ2階に逃げた健二が、階段を頭から滑り落ちてくる。そこだけスラップスティック風に演出しているところが、いかにも黒沢流。また、竜平の高校時代の友人・黒須(津田寛治)が、失業していることを家族に悟られないよう、竜平を自宅に招く場面。黒須の嘘などお見通しの娘が、階段の陰から顔を出し、「佐々木さんも大変ですね」と微笑む。ちょっとホラー風味を効かせたところが、また黒沢らしい。
後半は、米軍に入隊した長男の貴を除く、3人のドラマがハイテンポで展開していく。場面転換するたびに、画面のトーンも変化。ホラー調、スラップスティック調、活劇調というように、めくるめく転調を繰り返し、ラストへと突入していく。このアクロバティックな語りは、黒沢映画の真骨頂ですね。
子供たちの軽蔑の対象となる竜平の香川照之、家族のために自我を抑圧する母の小泉今日子は、ともに文句なしの名演。また、竜平の旧友・黒須役の津田寛治、ピアノ教室の先生の井川遙、そして強盗役の役所広司も、それぞれ印象に残る好演でした。
歩いても歩いても [DVD]
シネカノンは、質の面において、いまや日本のメジャー5社の遥かに上をいく配給会社である。この会社が送り出す珠玉の作品群が、日本映画再生にどれだけ貢献してきたことか・・・。今回も是枝組の静かな、そして力強い作品を世に出してきた。大船時代ならば松竹が手掛けたであろうテーマだが、映画をビジネスと割り切る大手は、儲からない作品は配給しない。舞台も小津映画の風情に近い、横須賀の野比(三浦半島)だ。是枝監督はドキュメンタリー出身だから、元来こういう作風なのだろうが、今回はそこに小津テイストを盛り込んでいる。夏の暑さ、日本家屋、畳、縁側、家族、長男を失った二男の立場、子連れ再婚の妻、建前だけよくていいかげんな娘、青い海。これだけ「和風」なシャシンは本当に久しぶりだ。そして何と心地よい作品なのだろう。また樹木希林、原田芳雄の圧倒的な芝居や、子供・孫たちの抑えた演技の対比も見事であった。またゴンチチのスコアも最高だ。最近はこういう「家族の絆」を描いた作品は本当に少ない。日本人は全員、この映画を観るべきである。「幸福な食卓」は「現代の東京物語」だが、本作は「正統な東京物語の続編」なのである。文句なしの5つ星。傑作です。
空中庭園 通常版 [DVD]
この作品は、家族の在り方を「こうだ」と決め付けて固執してしまった主人公が、
いかにして自分の家族との在り方を見直し関係を再構築するかということを描いていると思います。
また、映画表現として「象徴的に」描く手法が取られている為、幻想的にも感じられます。
しかし注意して、その映像が何を意味しているか考えながら見ることをおすすめします。
監督が麻薬かなにかで逮捕されたそうですが、作品に対してもそういう見方をするのは非常にナンセンスだと思います。
たとえば最後のシーン、血のような雨が降っているところ。
意味をよく考えないと、ただのホラーに感じてしまうでしょうね。
その意味するものはおそらく「赤ん坊」です。
「血まみれのまま泣きながら生まれてくる」。
あれは主人公の考え方が生まれ変わる、再構築を意味しているのではないでしょうか。
もしくは、思い込みを捨てて、昔を思い出す、ということかもしれません。
家族との関係を見直さざるを得なくなった、そういった体験をした方なら、共感できる内容なのではないでしょうか。
家族関係に満足している人にとっては、ただ不快なだけで理解できないかもしれません。そういう意味では、見る人を選ぶ映画です。
トウキョウソナタ(竹書房文庫た1-1)
あいかわらず黒澤清のシュールさは秀逸。オーバーリアルな設定も、身近に感じさせる演出。舞台挨拶の生キョンキョン、井川遥もイケテルし所々に織り込まれたユーモアもさすがの一言。こりゃヒット間違いなしだな。