手紙 スタンダード版 [DVD]
ダイジェスト的に出来事を積み重ねてみせる手法はいいけれど、もうちょっと丁寧に主人公の心情やまわりとの関わりを描いてほしかった。人目を避けるように生活しているのにもかかわらずお笑い芸人を目指す、そこに至った経緯も描写不足(しかしこの役の設定は演じる上で相当困難だったんじゃないかな)、直貴と由美子の関係もいろんな意味で唐突なシーンが目立った。逆に中盤の朝美とのシーンの演出はだらだらと平板な印象。
それでも尚これだけの作品になりえたのは、役者陣の演技に負うところが大きいと思う。ある意味この映画の集大成のシーンだと思った主人公と被害者の息子との対面シーンは息を押し殺して見入ってしまった。最後の刑務所での漫才のシーンは秀逸。泣くまいと涙をこらえて漫才をする弟、その姿を見てひたすらダダ泣きの兄、両者の演技、演出とも素晴らしい。笑いながら泣けるという経験はそうできるものではない。最後の最後、何か腹を括ったかのような兄と弟、そして親子の後姿が今でも鮮明に思い出せる。原作ではミュージシャンのところをお笑い芸人に設定を変えたのも大成功だったと思う。
だからこそもう少し丁寧なつきつめた展開、演出をしてほしかった。このあたりが完璧ならばどんな凄い作品になっていただろうと思うと非常に残念だけれど、それを差し引いても☆5つをつけたい。
手紙
映画化されたんですね。
久しぶりに本棚から手に取り読んでみました。
加害者と被害者、それぞれの家族、そして社会から向けられる差別。
テーマとしては古典的だが、加害者の家族である弟・直樹の視点は現代的であり、
定期的に送られてくる受刑者である兄からの純実な手紙にもがき、いらだつ弟の姿や、
理不尽な差別・偏見に対する憤りに感情移入しながらストーリーは進んでいく。
終盤、主人公の勤務先社長の言葉に息をのむ。
差別の肯定とも受け取られかねない激烈な言葉。 冷徹なまでに差別の事実を説く言葉。
作者によって多くの読者が、理想や道徳の影から引きずりだされる場面ではなかろうか。
だが、そうしておいて答えを明示してくれるわけでもない。
それがこの小説を読み進める苦しさなのかもしれない。
ラストは東野さんの作品らしく、わずかながらの救いを読者には差し伸べてくれる。
愛であり、許しであり、絆の存在を明瞭に確信させてくれる。
しかし、それをもってもこの兄と弟は救われない。 いや、それこそが苦しみを増感させるのか・・・
―兄貴、俺たちはどうして生まれてきたんだろうな。
―兄貴、俺たちでも幸せになれる日が来るんだろうか―。
そこに感動や希望、終結は見いだせない。
無限の苦しみを前にした兄弟の張り裂けそうな「祈り」だけが共鳴し、
涙となって溢れ出す人はきっと多いと思う。
残酷で美しい物語です。
よろこびのうた/手紙〜親愛なる子供たちへ〜
樋口さんの声はかっこ良い上、全曲すべて貫禄があります。とにかく樋口了一さんは素晴らしいミュージシャンです。さらに財津和夫さんのカバー「切手のないおくりもの」も収録されています。