吉原御免状 (新潮文庫)
61歳という高齢で文芸作家デビュー、その後わず5年で他界した隆慶一郎。その処女作にあたる「吉原御免状」は、切々と心を斬り刻んでいく一冊です。
剣豪・宮本武蔵最後の弟子、松永誠一郎の物語。
捨て子だった松永誠一郎の育ての親であり師匠であった宮本武蔵が、生前に言い残した通り25年の間を山中で自給自足した誠一郎。26歳で山を下り、師が言い残した通り江戸・吉原の庄司甚右衛門のもとへ赴く。
この江戸吉原を舞台に繰り広げられる松永誠一郎をとりまく伝奇時代小説。
器用に生きることができない人間。
己の欲望、野心、誇りのために戦う男、そして女。剣を交えるごとに変化していくそれぞれの心模様。血筋、身分、種族を超えて、これに翻弄されてしまう周りにいる人間達。
そこには、究極の愛を垣間見ることができ、涙なしで読むことができません。
一夢庵風流記 (新潮文庫)
作家 隆慶一郎 氏を知ったのは、本書が初めてだった。
漫画で読んだ花の慶次の原作を僕も読んでみようと思ったのだ。
本書は傾奇者、前田慶次郎の一生を鮮やかに描く歴史小説である。
本書を読んで、原哲夫氏が漫画にしたいと思った理由がよく分かった。
脚本家だった氏の文章には、いつも鮮やかな華がある。
そして、それはいつでも絵になる文章なのだ。
本書は、それがもっともよく現れた本のひとつだと思う。
それは、氏の描く小説世界にいつも共通する美しさであり、恐らく氏の生き方に深くかかわった美意識なのだろう。
影武者徳川家康〈上〉 (新潮文庫)
私が隆慶一郎を知ったのは、かつて週刊少年ジャンプで連載されていた「花の慶次」であった。後に「影武者徳川家康」も連載されたが、未完の形で終わってしまった。続きが気になった私は、小説版の原作を読んでみようという気になった。そして漫画版と原作の違いに気づいた。漫画版は、少年誌のためにアレンジされた部分があり、合戦や人情話に比重をかけざるを得ないだろう。小説は違った。確かに冒頭で徳川家康が暗殺されて、影武者が代わって合戦の指揮をとるという衝撃的な場面がある。しかし、その主題は、「道々の輩」という言葉に表される隆慶一郎の歴史観だったのである。私は専門家でないからその詳しい内容は書かない。漫画版しか知らない人も読んでほしい。後にこの作品はドラマ化されたが、私は!見ていない。三分冊に及ぶこの作品を1クールで表現できるとは思えなかったからだ。ドラマを見た方で、「道々の輩」の歴史観をご存知ない方も、この原作を読まれてみてはどうか。