青春デンデケデケデケ (河出文庫―BUNGEI Collection)
本書を初めて読んでからもう15年以上にもなる。しかし、これほど楽しくて気持ちよく泣ける青春小説を、わたしはその後読んでいない気がする。
1960年代の香川県観音寺が舞台。ロックに魅せられバンド活動に明け暮れる4人の高校生の物語である。大人になった主人公・ちっくんの回顧風に描かれている。文藝賞受賞作品で、のちに直木賞も受賞した。
何度読んでも新鮮でおもしろさが薄れないこの小説をどこから紹介したらいいだろう。まず、バンドメンバー(と技術顧問)の高校生たち、脇を固める大人たちのキャラクターのよさ。当時は「キャラが立ってる」などという言葉は知らなかったけれど、今彼らを表現するならぴったりかもしれない。それぞれに個性的でおかしみがあって、真剣そのもので、人が好くて、まことに気持ちがいい。
それから文章のよさ。とにかく生き生きとして、ユーモアと躍動感に満ち、讃岐弁になんともいえない味わいがあって、過去と現在(当時を回顧する主人公の「今」)を自在に行き来する達者な文章が見事(もちろんメインは過去パート)。まったく無駄がない。あたかも著者の自伝のように読めるのだが、実は著者がバンドに関わったのは照明係としてだったという。このリアリティ溢れる回顧風の物語が「創作」とは、すごい。
そしてもちろんストーリーの魅力。バンド仲間探し、資金調達、練習、文化祭、やがて来る旅立ち・・・その中に織り込まれたほのかな恋やらなにやらのエピソード、どれも掛け値なしにいい。読者は物語にどっぷり浸り、著者によって喜怒哀楽のベクトルに自然に導かれ、笑わされたり泣かされたりする。もちろん「楽」が圧倒的に多いのだけど、「哀」の印象深さも挙げておきたい。
本書以上に生き生きとした魅力溢れる青春小説を読みたい・・・だが一方で読みたくない気もする、そんな思い入れのある一冊だ。
オカメインコに雨坊主 (ポプラ文庫ピュアフル)
乗る列車をうっかり間違えてしまったために、どことも知れぬ町に運ばれた画家は、ひょんなことからその町の家の離れで暮らすようになります。そうして、そこで暮らすうちに、物語の語り手である画家は町の住人たちと言葉を交わすようになり、ちょっと不思議な体験をしていきます。どこか夢のような、なつかしい気持ちを呼び覚まされるような、そんな出来事に遭遇したり、妙なモノとめぐり会ったりするんですね。スケッチブックにさらさらっと絵を描く感じで、画家が綴っていく不思議の話たち。「オカメインコ」「やまざくら」「雨坊主」「ほおずき」「ねえや」「ブランコ」「ミーコ」の七つの話が収められた連作短編集です。
アイルランド出身の英語の教師・ノートンや、よろず屋(画家は、その離れに住んでいる)のばあちゃんの孫の小学生・チサノ、よろず屋で飼っている猫のミーコ。彼らと画家の「ぼく」との心が触れ合う様子は、見ていてあたたかなぬくもりを感じました。ふわっと心がなごむような会話なんだけれど、そこには時折くすりとさせられるとぼけたおかしみもあります。なかでも、「ぼく」とノートンが交わすやり取りに、生命の不思議へと思いを誘われてしみじみとさせられました。
ほのぼのとした、やわらかなファンタジーの香りがする作品の空気は、どこか、梨木香歩さんの『家守綺譚』に似ている気がします。そして、丸山薫の「汽車にのつて」という詩の一節が語りかけてくるようにも思いました。<< 日が照りながら雨のふる あいるらんどのやうな田舎へ行かう >>と。
山桃寺まえみち (PHP文芸文庫)
1993年に出た単行本の文庫化。
『青春デンデケデケデケ』につづく第2作。
目線を変えようという意図で、女性からの視点で語られた物語になっている。それなりの成功と思う。彼女を狙って(?)集まってくる男たち、女性同士の友情などが描かれ、新鮮だった。男女の仲の難しさと素晴らしさを伝えてくれる話だと思うが、やっぱり結末がオープンエンドなので、なんとなく収まりが悪い。 いつもながらのとぼけた味、会話は良かった。