サトウハチロー・いわさきちひろ詩画集 おかあさん
いわさきちひろさんの淡い優しい色づかいの絵に、サトウハチローさんのあたたかい詩がとても合っています。
いわさきちひろさんのほかの絵本は大きめですが、この本は小さめで読みやすく、詩にも深さがあって、大人にも十分楽しめる絵本だと思います。
サトウハチロー詩集 (ハルキ文庫)
1903年生まれ、東京出身の昭和詩人・サトウハチローの詩集です。
日本人なら誰でも知っている童謡『おひなさま』や、昭和を代表する歌謡曲『りんごの歌』の作詞者なのですが、まど・みちおさんが『ぞうさん』の作詞者だということを知らなかったように、サトウさんがこれらの詞の生みの親とは、私は今日まで、寡聞にして知りませんでした。先日、東京新宿にある中村屋さんで食事をした際、お店のメニューの表紙にサトウさんの詩が書いてあって、それが素敵だったので、興味が湧いて詩集を買い求めた次第です。
が、残念なことにその中村屋さんで見かけた詩は本書には載っていませんでした。ヴェルレーヌうんぬんというフレーズがある詩なのですが・・(注文後メニューが下げられてしまうのを忘れて、しっかり詩を読む前に注文をしてしまい、余り詩文を覚えていないのが無念)。
しかし本詩集は、期待を裏切らない素敵な内容でした。詩は、「母の思い出」「粋をたずねて」「こころの詩」「わらべ唄」「流行り唄」と分類された5章から構成されています。
一読した印象としては、この表現は適切でないかもしれませんが、日本のラングストン・ヒューズという感じでした。もしくは、チェコの国民詩人サイフェルトとも近いでしょうか。
戦中戦後の貧しく物悲しい庶民の暮らしを淡々と、切々と、時には哀しく感じるくらいにからっと明るく歌う、詩人の世界。
日本人の感性なので、アフリカ系アメリカ人のヒューズよりはしっとりして繊細な音感の詩ですけれど、スタンスは非常に似たものがあるのではないか、と思います。雪のようにじんわりと染みてくる感傷性という点では、サイフェルトとより似ています。
ハイネもボテフもぺテーフィもサイフェルトも、多くの優れた詩人が「母」への感謝や愛情を詩にうたっていますが、サトウさんの「母」に関する詩もまた、素朴で美しく、後悔や愛おしさの混じった、しょっぱい涙の味がします。
現代人でも違和感なく共感できる作品が多いですので、ぜひご一読ください。