帝国・国家・ナショナリズム―世界史を衝き動かすもの (MINERVA歴史・文化ライブラリー)
私は、小学校6年生の社会科での授業以来、「人権尊重・民主主義は絶対的に正しいもの」ということを学習してきました。しかし、イラクの例に見られるとおり、アメリカの他国に対する単純な「民主主義の押しつけ」は、すべての国に対して必ずしも望ましい結果を生むものではありません。
本書では、近代民主主義が、18世紀頃から、実は権力者のニーズに合わせて登場してきたことが解き明かされます。民主主義は「人類文明の到達点」といったものではなく、あくまで、近代国家の権力者のニーズに合わせて登場してきた便宜的なイデオロギーに過ぎないことが分かります。
そして、民主主義は、国家の統一を育む土壌を提供する一方で、民族・宗教等に基づく過激なナショナリズムをも生み出します。これは、国家を悲惨な分裂に追い込む萌芽となります。アフリカ諸国の民主化然り、イラク然り、冷戦後のユーゴスラビア分裂然り、です。
本書では、明確なあるべきイデオロギーが提示される訳ではありませんが、しかし、民主主義の功罪が歴史的ファクトとして呈示されます。
民主主義を他国に主張してきたアメリカ一国による世界の覇権支配が曲がり角を迎えている今、民主主義を客観的に見なおしていく上で、勉強になる一冊です。
(by JIN@<おとなの社会科>)