インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実 [DVD]
非常にわかりやすく見ることができ、誰がリーマンショックを引き起こした人達であったかおのずと判明する仕組みになっている。著名な米政府高官、金融業界の重鎮達がいかに強欲軽薄であったか、最初から終わりまで痛感させられ、IMFの元専務理事のあのDSKでさえ、彼らの小さな集まりで「自分達は強欲だ。誰かが規制してくれないものか」と告白を受け、驚いたというシーンは印象的であった。画像は妙なことに終始美しく、淡々と出来事を語っている。
日本については触れられておらず、アイスランドの他は大部分が米国人とIMFの2人の中心人物への取材となっており、やや辟易するのは金融業界幹部達の巨額報酬額の羅列が多過ぎることである。
わかりやすい構成の裏腹として、リーマンショックへの背景への突っ込みや分析は視聴者任せとなっており、その点ではこの作品に深さを期待しない方がよい。
リーマンショック以降、明らかに世界恐慌という状態に突入し、現在進行中の“ユーロ恐慌”に至っているが、これらは80年代末の日本の大バブル破裂に起因している可能性があることを指摘する人は殆どいない。リーマンショックは日本からの円キャリーを起動力とし、段階的にCDOやCDS等の創意工夫をし、詐欺的に大規模に運用した結果起きた。
1930年前後の世界恐慌が米国の工業生産力過剰が中心だったことと対照的に、日本、米国、欧州と続く一連の世界恐慌の背景は通貨と巨大な金融システムが中心となっている。世界恐慌が30年代のような悲劇的展開をまだ見せていないのは各国政府の通貨介入や協調、低金利誘導、IMF等の存在があるからである。実質的に各国の大衆レベルでは恐慌突入下の生活状態であり、経済学はミネルバの梟であるために説明できないだけである。現状を世界恐慌突入下と明確に認識してこそ打開口が見えてくるのであり、そこをはぐらかしたままだとこの映画の視聴は単なるドキュメンタリー鑑賞に終わってしまう。
ヤバい経済学 [増補改訂版]
人間の行動の根本にはインセンティブと言う考え方があり、経済的・道徳的・社会的に得をする方向に動く。これは情報から読み取ることができるのだけれど、情報には不平等さがあり、損をする人も生まれる。情報から読み取る際には、通念を取り払い、物事の相関と因果関係を正しく見極める必要がある。以上の様な思想に基づき、一見すると馬鹿馬鹿しいと思えるような疑問を次々と連想ゲームのように取り上げ、あらゆる解析手法を使ってデータから解き明かしていく。全くバラバラの話題なのだけれども根底には思想的統一性があり、まるで口述筆記したかの様なくだけた文体でつづられている。
解き明かした疑問の中にはかなり物議をかもす話題もあり、中絶の容認が犯罪率の低下を招いたとか、生徒のテスト結果で学校の評価をするようにしたら教師の不正が増えた、がそれに当たる。相撲の八百長に関する話題(7勝7敗と8勝6敗の勝率は前者が圧倒的に高い、など)は、感覚的にはあるかな、と思っていることを裏付けている。
学術書と言うわけではないのでこの本の中だけで得られた結果を検証するのは無理だけれど、こういう考え方があると言うことを啓蒙するのには役立つと思う。
最強の経済学者ミルトン・フリードマン
<マネタリスト、シカゴ学派、新自由主義の元祖、レーガン、サッチャー政権に大きな影響を与えたノーベル経済学賞受賞者……。>というのを読むだけでも唾棄すべきエコノミストと思わせるに十分だが、意を決して読んでみた。しかし、さらに・・・・。
フリードマンが、廃止すべき14の政策として掲げた次のような項目が、コイズミ改革と併せて称揚される「反知性主義」には暗澹たる気持ちになる。
●農産品の政府による買取保証価格制度●輸入関税または輸出制限●家賃統制、全面的な物価・賃金統制●法定の最低賃金や価格上限●細部にわたる産業規制●連邦通信委員会によるラジオとテレビの規制●現行の社会保障制度●特定事業・職業の免許制度●公営住宅●平時の徴兵制●国立公園●営利目的での郵便事業の法的廃止●公営の有料道路。
アマゾンがご丁寧にも掲げてくれているこれらの項目を心して見られよ!
ほとんどアナルコ・キャピタリズムの世界である。現に合州国では、●現行の社会保障制度などというものは無に等しい。我がニッポンでもコイズミ・タケナカ路線によって●営利目的での郵便事業の法的廃止が軌道に乗ったことは周知の通り。社会保障については、介護保険の導入を評価する向きもある(上野千鶴子)。それはともかく、社会保険全般において、制度問題のみならずフリードマン路線が着々と進んでいることは、テレビCMのアメリカ保険会社の盛況を見れば明瞭たるものあり。
そういえば、学生時代フリードマンの主著『選択の自由』を読まされたことを思い出した。フリードマンは、ハイエクや師のフランク・ナイトとは異なる。特に後者の師匠に破門されたことをマネタリストシンパは心する必要があるとだけいっておこう。
リチャード・ホフスタッター『アメリカの反知性主義』では、扱っている時代の相違もあってフリードマンには触れていないが、フリードマンこそ現代世界の(勿論ニッポンの)反知性主義の「巨匠」なのである。彼を称揚する御仁は、せめて環境問題のことくらいでも思いを馳せてみればよかろう。
碌でもないアル・ゴアすら、ケネディすらまともに見えてくる。チャベス頑張れと言いたくなるではないか!
この世で一番おもしろいミクロ経済学――誰もが「合理的な人間」になれるかもしれない16講
これまでまともに経済の専門書を完読したことのなかった私にとって、本書が最初の最後まで読み切ったミクロ経済学の本となりました。親しみやすいイラストと分かりやすい構成でスイスイ読み進められました。
本書の構成は
1.個人の最適化戦略(合理的個人)
2.相互関係における最適化戦略(ゲーム理論)
3.市場のおける最適化戦略(需要と供給、競争市場)
と3部構成になっていてこの順に読み進めてスムーズに理解が進みます。他のミクロ経済本ではここでの3部から始めるものが多い気がします。ゲーム理論に大きなスペースを割いており、ゲーム理論の経済学における役割と位置づけがよく分かりました。
また、各所でこの理論はノーベル賞を取った成果といった紹介もあり、経済への興味をより深めてくれました。
本書はあくまで入門書なので、本書の理解をきっかけに他のミクロ経済学の本でより理解を深める必要はもちろんあります。原書では既に続本となるマクロ経済本が出ているそうです。続いて日本語の訳本が出るのを楽しみに待ちたいと思います。