火の鳥 (4) (角川文庫)
本作は、火の鳥シリーズの中で、さまざまな意味で最も好きな作品である。
主人公キャラはいわゆるお茶の水博士であるが、本作では著者の生命観をいかんなく発揮するための役回りである。
そして、本作の主役二人は、作品中で徹底的に苦悩する。
政治と芸術のあいだで自らの立ち位置が怪しくなり、また自らの欲に飲み込まれそうになったりする。
著者はアーティストであるので、最終的には芸術より政治を、自らの立場を守ろうとした方に、より辛い結末が訪れることになる、という主張が明確に描かれている。
隻腕の主人公は最終的に両腕を失うことになるのだが、彼の芸術への強い情熱と対比するような静かな、実に静かなエンディングがまた、とても余韻の残るものとなっている。
若干の宗教臭さはあるものの、本作は、マンガで描かれた哲学である。
そしてマンガとしての完成度もまた、「復活編」と並んでシリーズ中のベストであろう。
個人的に最も好きなところは、彼が「生きとし生けるものすべてが、死んだら仏になる」ということに思い至る場面である。
そう、最近では生物多様性という言葉があるが、命を持つのは人だけではない。
その重さはみんな平等だ、という著者の主張には、大変重いものがある。
このあたり、多分同時期に執筆されていたはずの「ブッダ」の影響もあるかもしれない。
生命をテーマにした本シリーズであるが、本作はそれが最もストレートに作品世界に描かれたものだといえるだろう。
そして、本作あたりを境にして、本シリーズのテーマが“永遠の命”から、“命とは何か”、すなわち“生きることの意味”を問うものへと、徐々に変わっていったのである。
それもまた、「ブッダ」の影響というか、その掲載誌の影響だったのかもしれない。
火の鳥 鳳凰編 [DVD]
当時原作本をたくさん出していた角川のメディアミックス戦略で制作されたアニメ映画だったと思う。絵が違うなど云々以前に、「鳳凰篇」のダイナミズムあふれるシナリオを十分に生かしきれてない尺の短さ。2時間以上の大作として作るべきだったと思う。劇場では見なかったが、当時のCMだとアニメ映画「時空の旅人」と同時上映という形になっていてこちらは2時間位だったと思うが上映時間を逆にしたほうがよかった気がする。
この後、OVAで「ヤマト篇」「宇宙篇」が同じ製作会社のスタッフで製作されたが、これらも原作を読み直せば物足りなさを覚えるかもしれない。
けれども、後年NHKで製作されたTVアニメ版「火の鳥」よりはこれらの作品のほうが
だいぶ面白い。
Voice Festival 火の鳥〜鳳凰編〜
作曲者の和田薫氏は純音楽の作曲家であり、映画・アニメ・舞台の劇伴音楽でも知られる人物です。中でも『犬夜叉』『SAMURAI-7』など和風物・伝奇物の音楽は特筆すべきものがあります。ヴォイスドラマは見たことがありませんがサントラだけでも良い作品だったことが伺えます。手塚治虫氏の『火の鳥-鳳凰編』の原作を知って入れば大体の情景は浮かびます。挿入歌も見事な出来で、人物・作風を良く表しています。圀布田マリ子さん演じるブチの「旅は続く」は単曲でも聴きごたえがあります。感想としては、おそらく声優の演技で情感の動きを見せるためでしょうが、他の和田氏のサントラと比べると抒情性・躍動性は控えめで、大人な曲作りに感じます。注目したいのが「苦しみの茜丸」です。茜丸は某アニメ版では「善人だったのに権力に溺れて堕落した愚かな人物」という短絡的な解釈で描かれおり、その認識が『火の鳥 鳳凰編』全般のレビューなどでも浸透しているようで、残念に思っていました。その点「苦しみの茜丸」は本意ではない権力のしがらみにもがき苦悩している悲哀が伝わる良曲です。『火の鳥-鳳凰編』の空気が好きな方、和田薫氏の作風が好きな方は聴いて損はない曲目だと思います。