ビゼー:歌劇≪カルメン≫ウィーン国立歌劇場1978年 [DVD]
1978年12月9日、ウィーン国立歌劇場でのプレミエ上演の映像のDVD。演出・舞台・衣裳は、フランコ・ゼッフィレッリ。カルメンにオブラスツォワ、ドン・ホセにドミンゴという布陣である。
結論から言おう。この『カルメン』より素晴らしい『カルメン』は無い。クライバーは、レパートリーを極めて少なく限定し、リハーサルの時間をチェリビダッケに匹敵するほど、つまり通常の倍以上多く実施し、自分の意に沿わないとわかった仕事は即止めるというスタンスを貫いてきた。それがなければ自身の考えるものはできないと思っていたのは容易に想像がつく。そういう人間がオペラのように多くの要素をあわせ持った作品に『良し』を出したのである。クライバーの『良し』が出ないが故に屍になったり、海賊盤になった録音がどれほどあるか想像もつかない。
実力のある者たちが本気でやるとどんなものが出来上がるか、この『カルメン』はそういったものを眼で観ることができる稀有な経験を与えてくれる。そして何度観ても、これ以上の『カルメン』は、ない。未来永劫出てこない。そう思ってしまうのだ。
A17 地球の歩き方 ウィーンとオーストリア 2012~
それは、情報の質と量が図抜けているからです。色々なルートからも情報を入手するようにしていますが、日本人観光客にピッタリくるようなものは少なく、却って時間がかかります。あえて要望を言えば、略地図がもう少し多ければと思います。
2002年1月1日のウイーンフィルニューイヤーコンサートを収録したもの。指揮は小澤征爾氏。この日は実は、通貨ユーロの発足した日であり、会場の楽友協会ホールのパイプオルガンには通貨ユーロの記号がかかり、演奏途中の背景にユーロの記念金貨鋳造の映像が映ったりするなど、様々な意味で記念碑的なコンサートの記録である。
昨今健康面で不安を抱えてらっしゃる小澤征爾氏もこの当時はまったくお元気で、エネルギッシュな指揮ぶり。演奏会も大盛会だったようで終曲のラデツキー行進曲が終わるや否やのブラボーと拍手が凄まじい。
再発売でお値段がお値打ちになったのも嬉しい。この値段も考慮して☆5つとさせて頂きたい。
小澤&ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサート2002 [VHS]
今改めて感じるが、ボストン交響楽団と演奏していたころの小澤と比べると、
本当に別人のような演奏だと思う。あの頃の演奏は主にラジオで聞いていたが、
ベートーヴェンの交響曲ですら外的な音響効果を狙ったような演奏が多く、
ここまでアメリカ的にならなくても・・・とずっと思っていた。しかし、ここで
のニューイヤーコンサートは、少なくともそういう表面的な効果を狙っていない。
恐らくサイトウキネン・オーケストラとの経験が良い方向で生かされているのだろう。
その点は、評価すべきだと思う。
私がこのコンサートの演奏を聴いたときは短縮版のCDで、当日の印象と違って
いた。ニューイヤーコンサートを「正しく」楽しむには、フルに入っていて映像も
あるDVDがメディアとしてお勧めだ。ちなみに演奏は、以前自分が記載した
レビューのとおり、内容的に徐々に良くなっていく傾向にある(※だから記載内容
もほぼ以前のレビューのとおり)。
第1部はたまにアンサンブルの縦の線が合っていないところがある。
演奏はフレンドリーで楽しいが、くせのないウィンナ・ワルツを演奏している
ためか、たまに変に強調したりとはみ出し気味な印象も受ける(たまに変な強調
がある点は、C・クライバーの演奏も同じ)。
私がここで注目したいのは、ヨハン・シュトラウス1世の「アンネン・ポルカ」。
この曲は、師匠のカラヤンもニューイヤーコンサートで演奏している。当時の
カラヤンは衰えからか昔のような強い統率力がなくなっていた。しかし、長期間
に及ぶリハーサルのためか、当日の演奏は目立ったアンサンブルの乱れもなく、
ウィーンフィルが自律的にカラヤンに寄り添うような演奏を展開していた。この
「アンネン・ポルカ」もその姿勢が十分に感じる名演奏だった。
それと比べると、ここでのウィーンフィルは、小澤の指揮に従順すぎる印象を
受ける。そのため、ウィンフィルによるウィンナ・ワルツというより、小澤による
ウィンナ・ワルツという印象を持った。フレンドリーで聴衆にウケがいいのは、
小澤の音楽の才能と経験がうまく生かされた結果だと思う。
第2部の冒頭の喜歌劇「こうもり」序曲は、その小澤のやり方がうまくいって
いないと感じる人も多いだろう。カラヤンのニューイヤーコンサートでの演奏と
比較しても、明らかにウィーンフィルのアンサンブルにぎごちない印象をうける。
それは、第2部の1曲目を、敢て師匠のカラヤンと同じ曲で始めたことによる
極度の緊張とか、オペラの経験が不足しているとか色々理由があると思う。
私が気になったのは、この曲ですら、ウィーンフィルに自律的に演奏をつくっている
姿勢があまり感じないことだった。恐らく昔のウィーンフィルであれば、頑として
自分達の音楽を突き通すに違いない。カラヤンはその個性をうまく引き出していた。
ただそれ以降の曲は、第1部と基本的に同じ傾向だが、アンサンブルもよくなり
聴きごたえがあった。結果として、今までのニューイヤーコンサートの中では、
比較的いい出来になっていると思った。
このレビューを始めて記載したときは私の好みのニューイヤーコンサートは、
1954年のクラメンス・クラウスと、1987年のカラヤン、2005年の
マゼールだったが、今回はプレートル(DVD)も加えさせていただきたい。
どれも癖のないウィンナ・ワルツを「そのまま」演奏し、中身の面白さで上手に
聴かせている。なによりウィーンフィルが積極的に音楽をつくっているのが強く
印象に残った。特にマゼールの変化は、正直驚きだった。
ウィンナ・ワルツを演奏する場合、もしくはその演奏を楽しむ場合、念頭に入れて
おかないといけないのは、今この時代にあってなぜ「ウィンナ・ワルツ」なのかと
いう点だ。ただうまいだけの演奏では不十分だと思う。その点、プレートルの
シャレた感じはウィンナ・ワルツはまだまだ博物館で閲覧するような古い音楽じゃない
ことを感じさせてくれた。今後は、こういう演奏が多くなることを期待したいなと思った。
エメリッヒ・カールマン「マリッツァ伯爵令嬢」 [DVD]
カールマンというと最近日本でも上演の多い「チャルダッシュの女王」が有名だが、かつてはこの「マリツァ伯爵令嬢」(夫人の訳もあり)が代表作とみなされていた。事実、美しいメロディが次から次へと出てくる豊穣さでは全く見劣りがしない。当時すでに一流のワーグナー歌手と目されていたルネ・コロがふんだんに名唱を聞かせ、相手役エルツェベルト・ハジも幅の広い歌唱力でこれに応える。ベンノ・クッシェらの脇がまた最高にユーモラスで楽しい。
ユニテル・オペレッタ・シリーズとしは珍しくオーストリア中心の製作で、こころなしかタッチも柔らかい。解説でも触れられているが、カールマンは標準ドイツ語よりハンガリー訛りのドイツ語のほうが似合うのかも知れない。映像的には大規模なハンガリーロケでたっぷりと田園風景や民族衣裳、踊りが楽しめる。ゆったりした部分と激しい部分のコントラストも鮮やかで「うっとり」「うきうき」を交互に堪能できる充実した2時間だ。