野村胡堂伝奇幻想小説集成
戦後になって幾つかの雑誌に発表された「奇談クラブ」を全話収録し、更に埋もれていた中短編を幾つか収録したもの。但し、戦後の「奇談クラブ」は「宝石」がスタートであった為か殆どがミステリーかサスペンスの類で、戦前のシリーズの様な幻想性は見られず小ぢんまりと纏まったものが多く、全体としてスケールダウンしてしまった感じで、第一シリーズと第二シリーズに見られた荒唐無稽な面白味に欠け、短いものが多いせいか筋立ての起伏もあまり無く単調な感じだ。
その他に収録されている単発ものの時代伝奇小説は、編者の方針からエログロ要素のある作品中心に選ばれている。
この調子で、SFをはじめとした埋もれた作品をどんどん発掘紹介して行って欲しい。
あらえびす SP名曲決定盤 第1集
ご存じの方も多いでしょうが、銭形平次の原作者である野村胡堂氏のSPレコードコレクションからの復刻です。歴史資料としての価値はもちろんのこと、蓄音機の時代にこれほどまで水準の高い音楽が享受されていたという音楽性そのものに感動します。胡堂氏は当時のレコード音楽の第一人者であり、東京大学でレコード音楽を講義し、現在の天皇陛下が皇太子であられたときに西洋音楽の御進講も務めた人物です。できれば音の良いスピーカーで再現したいデリケートな音源であります。
銭形平次捕物控 新装版 (光文社文庫)
1985年に出た光文社時代小説文庫の新装版。字が大きくなっているという。
400篇くらいあるという銭形平次の物語から、10篇を選りすぐって一冊としたもの。収められているのは、「小便組貞女」「八五郎の恋人」「濡れた千両箱」「刑場の花嫁」「仏喜三郎」「雪の夜」「花見の仇討」「弱い浪人」「遺書の罪」「尼が紅」。
傑作選ということで、銭形平次への入門編としては良いと思う。本格的に、全編を読破しようと意気込んでいる人には不要の一冊。
私は、銭形平次ものを読むのは初めてであった。驚いたのは、平次がほとんど銭を投げないこと。本書では、わずか1篇でしか、銭を投げつける見せ場が出てこないのである。恐るべしはテレビの影響である。
もうひとつの特徴は、ものすごく人情味が強いということ。止むに止まれぬ事情からの犯罪が多く、犯人はほとんどが見逃されてしまう。平次の検挙率は、かなり低いのではないかと思わされた。
全体的な感想としては、いまひとつの印象が強い。捕物帳の傑作とは聞くが、うーむ。