アポロンの島 (講談社文芸文庫)
小川国夫の処女短編集(と言って良いと思う)。明らかに聖書から題材をとった一群の小説と、自らの体験に根ざした私小説群とから成り立っている。小川国夫の私小説は、著者自身が自分の周囲に固執して書いており、それがかえって世界の普遍を書く描くことになっている。小川国夫の小説は難解と言われているが、この短編集におさめられている小説は、難解ではない。
銀色の月――小川国夫との日々
小川国夫という不思議な作家がどのように文学に取り組み、特異な小説群を生んできたきたのかは、彼自身の著作でかなり明らかにされています。しかし、この小川の同伴者、妻による小川国夫へのレクイエムは、その文学的な営為がどのような苦悩のうえになされたのかを、違った角度から照らし出しています。やや硬質な文章が、小川国夫とこの著者との関係を表しているように思えます。しかし、私にとって衝撃的であったのは、小川とその母との間柄、それにまた妻として著者がどのように関わってきたかの生々しい描写です。小川国夫の原点のひとつをかいまみる思いがしました。小川と著者との他のものを許さない密な結びつきと外面的な距離(坂ですれ違う国夫が著者を無視する!)との先鋭な対立も記憶に深く残ります。80歳になんなんとする著者の何とみずみずしい文章でしょうか。3.11後に小川国夫はまた新しい側面を見せてくれる予感がします。
虹よ消えるな
視線の静かさと秘めたる覚悟のようなものがにじみ出てくるかのような、一見なんということのない素朴な、素直な文章に感じますし、すらすらと読めてしまうのですが、すらすら読むのがもったいなく感じさせる何かが文章にあり、つい読み返したりしてしまいます。自身の身の回りのことから、戦争中の事、あるいは趣味の絵、釣りの事まで、題材は何であっても視線はあくまで低く、読ませます。前回読んだ随筆集が大変良かったのでこの作品を選んだのですが、この随筆も良かったです、ある意味想像通りの素晴らしさでした。
が、新鮮な驚きだったのが、最後に2つの小品、短編小説というか、スケッチというか、または私小説ともいえる文章があるのですが、これがとても素晴らしかったです。パリに留学している書き手が結婚してプロヴァンスにいる友人をバイクで訪ねる「プロヴァンスの坑夫」、友人と2人でヴァカレス湖(私も何処だか分かりませんが、ヨーロッパのどこか?と推察しました)近辺を旅している日本人の私と物知りの速水との会話の妙の話し「サント・マリー・ド・ラ・メール」どちらもセンチメンタルだったり青臭い話しだったりする部分をあまり感じさせず、淡々と語ることで得られる静けさと透明感が素敵な作品です。
次は小川さんの小説を読んでみようと思わせる本でした。堀江 敏幸さんがお好きな方に、また小山 清作品が好きな方にオススメ致します。少し前までいらっしゃった地元に密着した「文士」の方の文章、とても惹かれます、オススメ致します。