社長・溝畑宏の天国と地獄 ~大分トリニータの15年
現在J2に属するサッカーチーム、大分トリニータ。この本はそのトリニータを創った、
当時の自治省から大分県に出向していた溝畑宏氏の半生記です。
分量は239ページで、所要は2時間程度、五章構成です。
内容は、大分県庁の溝畑氏が地域のため、W杯の招致とサッカーチーム結成を思い立ち
スポンサーを集め、数々の危機を乗り越えながらチームのJ1昇格、
ナビスコカップ優勝、そして社長を辞めるまでのルポルタージュです。
全編を通じて、溝畑氏のずば抜けた営業力や突飛な行動が丁寧に記されています。
また、随所に氏の講演内容や、県の融資に懐疑的なオンブズマンの意見も挿入されており
できるだけ広い立場から氏を記録し、分析しようという著者の意図が読み取れます。
常人では計り知れない氏が最終的に行き着く先はどこなのか。
果たして、氏のぶっ飛んだやり方は保守的な官僚機構で通用するのか。
大分トリニータ、観光庁とともに、今後の氏の行動に注目したいと思いました。
争うは本意ならねど ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えた人々の美らゴール
熾烈なレギュラー争いをしている最中、6試合の出場停止は非常に重たいペナルティだ。その上、Jリーグと事を構えれば、金銭的な負担だけではなく心身的な負担も加わる。何しろ「お上」にたてつくのだ。「終わったことは忘れて前に進もうよ」という甘い誘惑もある。それでも立上った我那覇は、自身のプライドだけではなくドーピングに関するサッカー界の正常化も勝ち得ている。我那覇の戦いは是非ともきちんとした貌で記録に残して欲しかったが、記録に残したのが木村元彦であったことが嬉しい。
この本の魅力は、勧善懲悪的に我那覇サイドが勝利したことが記録されていることだけではなく、ドーピングに対する戦いの迫力、臨場感にある。結果を知っている我々からすると、我那覇はシロでクロと認定する余地もないということになるが、敵もさる者引っ掻くものので、ドーピングの規定を題材にしたディベートで煙に巻こうとする。相当に理論武装してQ&A等の準備をしなければ本当に煙に巻かれそうだ。加えて相手はJリーグ。権威を笠に着ることもできる立場だ。期限が迫るという焦燥感も募る。
押しつぶされそうになりながら戦った我那覇をはじめとする人々の凛とした正義感、迫力がヒシヒシと伝わってくる。