ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)
『グラン・ヴァカンス』に続く中短編集。三部作第二部。
前作では物語設定上、SF的要素を極力廃した語り口であったが
本作ではその呪縛の鎖を、力技で解き放つかのように
華麗な筆致で、鮮やかに「仮想世界」を描ききっている。
視覚的なきらびやかさだけではなく、
その手触りのリアリティも、まこと秀逸である。
しかし詩的に、そしてグロテスクなだけではなく、
ラストを飾る中篇「蜘蛛(ちちゅう)の王」の
疾走感溢るる跳躍の描写は、こんなこともできるのかと
舌を巻く出来である。
グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
飛浩隆の作品は、繊細な残酷さに満ちている。ラギッド・ガールしかり、魔述師しかり。そして、この「グラン・ヴァカンス」しかり。そこに表現されているのは、仮想空間でのプログラムの操作にすぎないが、描かれた本質は、人間の心理であり、人間の危うさであり、人間の絶望と人間の悲哀だ。優れたフランスの文芸作品を鑑賞するように読み終えてしまった。
それは、ホラー小説の皮をかぶった恋愛小説であり、SF小説の形態をとった幻想文学。
ジュリーとジュールの二人の恋の行方。心の中に限りなく入り込むランゴーニを通して見える反転した世界。それはプログラミングされた人間の似姿だが、ひょっとするとわれわれ人間こそ、このAIたちの似姿ではないのか。そんなことを思わせる力がこの小説にはある。それに、この彫琢され磨き上げられた文体は、もっと評価されるべきだと思う。
読もうと思う人にはあまり参考にはならなかったと思うけども、わくわくするようなエンターテインメントに溢れた文学作品を求めている人にはうってつけだと思う。ぜひ、手にとって読んでほしい。読み終わると、まるで、自分の知り合いが一人、本当に息を引き取ったような静かな時間に出会うはずだ。
それは、めったにお目にかかれない稀有な書物である。
象られた力 kaleidscape (ハヤカワ文庫 JA)
冒頭の一編「デュオ」が凄い。やけに描写のクオリティは高い上に、展開も落とし所も劇的。異様な読後感がしばらく消えないのだからこれは傑作なんだろう。
音楽SF?なのだとか。確かに双子のピアニストにまつわる話ではあるけれど。最近のSFの潮流も分からず「完璧な小説」という触れ込みだけで読んでしまったのが良かったのかどうなのか、グロテスクで確かに完璧。こんなの読んだ事無い。
他の作品の水準の高さも比類ない。間違いなく天才ですね。
その後(更に)傑作との「グラン・ヴァカンス」も危うくて。このネガな魅力には昔イタリアンロックに嵌った感を思い出した。手を出さない方がよかったかなぁ。