私たちにたいせつな生物多様性のはなし
生物多様性の本はいくつか読みましたが、本書は「生物多様性とは?」という基本を押さえつつ、生態系の現状、これまでの国際的な議論の流れや日本政府の取り組み、そしてビジネスと日常生活の両面とのつながりについて、広い視点でバランスよく示していると思います。決して専門的すぎたり難しいわけではなく、かつ表面的ではない深くつっこんだ話も展開されていて、読み応えがありました。ほぼ毎見開きに図版やイラストがある点も読みやすかったです。
おもしろいなと思ったのは、スローフードといった新しい食のあり方や、半農半Xなど農にまつわる最近のトレンドとの関係に触れている点。名古屋のCOP10のときは、経済的価値の話ばかりが報道されることに違和感がありましたが、生活者として生物多様性と自分の暮らしの関係について、なるほどなと思うところがいくつもありました。
一方でビジネスの上でも、生物多様性に取り組むことが、世界ではいかに当たり前になっているのか、日本企業ではどんな取り組みが始まっているのか、いろいろな事例で示されていて、業界を問わず役立つ内容だと思います。
著者は『成長の限界』の訳者だけあって、最後に「生態系を壊さない成長のあり方」について触れています。「このままではまずい」と警鐘を鳴らしつつ、「ではどうすればいいか」が示されているので、頭で理解するだけではなく行動に移すヒントになる本だと思います。