血を吸う箱 DVD-BOX
単品3タイトルを揃えるよりも価格的にはちょっと得な商品。BOXセットにしてはブックレットなどの特典物が入っていないのが惜しいが、
単品それぞれに解説書が封入されているので、それで良しとしたい。
外箱は、単品ディスク同様に往年の怪奇映画のポスター・アートを想起させるレトロテイストなイラストで、
それがまたこの作品の雰囲気にマッチしていて良い装丁だ。
また近年のDVDボックスは、大きくてかさばる特典物を含めた箱にディスクを収めるデザインになっているものが多く、
それらは同梱特典を取り出すと箱がスカスカになるという弱点があったのだが(結果的に同梱特典はずっとボックスに
収納したままにしておかないければ見栄えが悪いという事態になる)、この“血を吸う箱”はDVDを収めた化粧箱と、
特典のカンオケバンクを別々の箱に入れるというアイディアで、前述の扱い辛さを解消している。
これは些細な事だが、BOXモノの買い物が多いユーザーにとっては親切な設計だと思う。
(★単品の『血を吸う』シリーズ3作は、それぞれ個別にレビューを書いているので、そちらを参照して下さい)
博士の愛した数式
「博士の愛した数式」は映画にも漫画にもなったが、このラジオドラマのCDもなかなかいい出来だ。原作でラジオの野球実況放送に博士、ルート、私(家政婦)が耳を傾ける場面に何とも言えない幸福感が漂うのだから、原作とラジオドラマの相性は悪くない。CDへの収録時間は80分弱。これは博士の記憶が80分しか持たないことに合わせたものだろう。原作のうち省かれた部分があり、原作にない台詞を追加したりしているが、小説の主要なポイントは外すことなく、数学の美しい秩序を反映した原作の静謐な世界をきちんと再現している。博士へのプレゼント等の点で、脚色は映画よりも原作に忠実だ。
出演は、柄本明(博士)、中嶋朋子(私)、武井証(ルート)ほか。声の芝居に情感がある。ラジオ放送だけでなく、博士たちが出かけた92年の野球場(阪神の試合)のどよめき、博士の家の時計の時を刻む音等の効果音も暖かさと静かさを演出する。亀井つとむ、八木裕も客演しているのが嬉しい。
音を通じて想像が広がるラジオドラマの、映画とは異なる魅力を再発見できる、聞いて心がいやされる佳作だ。
さらば箱舟 [DVD]
許可を得ないで勝手にノーベル文学賞受賞作品「百年の孤独」を映画化してしまい、世界中の顰蹙を買ってしまいましたが、そんな批判をものともしない寺山ワールド。
確かにモチーフは「百年の孤独」ですが原作とは全く違うものと考えていいと思います。
とにかく彼が描く独特の世界観、映像美、構成力、音楽の効果、は凡人の想像をはるかに超えています。それ故難解な作品ともいえます。
感性で楽しむ映画といえるでしょう。
小川真由美の妖艶さ、山崎努の狂気、そして高橋ひとみの美少女ぶりは必見です。
青春歌年鑑 1968 BEST30
ブルーライトヨコハマは、私にとって横浜の印象として刻み付けられている。「よこはまたそがれ」も「横浜イレブン」も「横浜チーク」も「ふりむけば横浜」も全く寄せ付けない。もう私の脳の奥底に刻み付けられた潜在意識なのだ。
当時4歳であった自分にもここにある曲は全部覚えているしとても懐かしい。「小さなスナック」なんて今でも聴きたいくらい親しみを覚える。歌謡曲が好きだった両親に感謝だが、その為に実際の年齢より老けて見られるのはちょっと痛いところ。昭和30年代生まれにはたまらない1枚だ。
猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)
バスに暮らす巨漢の師にチェスの手ほどきを受けた少年は、やがてリトル・アリョーヒンとして伝説のチェス・プレイヤーとなる。しかし彼は決してその姿を対戦相手に見せることなく、ロボット“リトル・アリョーヒン”の姿を借りて駒を握った…。
『博士の愛した数式』で数学に秘められた美しさを見事に描いた小川洋子が今回挑んだのはチェスを言語化すること。ここに描かれているのは、円舞し、滑走し、そして跳躍する駒たちの美しい姿です。私はチェスをやりませんが、頁を繰るごとに駒の躍動するさまを確かに眼前に思い描き、心躍る思いに間違いなくとらわれました。
しかしながらそうしたよどみなく舞い踊るチェスの優美な姿と対比して描かれるのは、リトル・アリョーヒンのあまりに痛ましい人生です。ギュンター・グラスの『ブリキの太鼓』か、John Irvingの『A Prayer for Owen Meany』の主人公を想起させるアリョーヒンの姿は、チェスという美しき詩を描くことを宿命づけられた人間のこの上ない残酷なめぐり合わせを表しています。
そしてまた、もうひとりの主要登場人物である少女ミイラが、人間チェスで強いられた試練の、言葉を失うほどの無残な末路。
チェスが内に秘めたその美を体現するために、人間がかようなまでに過酷に生きなければならないのだとしたら、それはどこかに誤謬があると私は感じざるをえないのです。
そう感じながら私は、チェスに打ち込む少年を描いた映画『ボビー・フィッシャーを探して』のことを思い返していました。あれはまさにチェスの美とそれを具象化しようとする人間の拮抗と均衡を描いた見事な映画でした。あの映画の結末に私は救済と希望を感じたのです。芸術と人はかくあるべしと思ったものです。
本書を読み終えた人には、ぜひあの映画もあわせて見て比べてほしいと強く希望します。